運動中に襲われる胃腸の不調、運動誘発性胃腸症候群について調べてみた

ウォーキング・豆知識

2023年、2024年、ワシはしまなみ海道ウルトラウォーキング、行橋別府100キロウォークに参加しました。その際、特に思い当たる節がないにもかかわらず、それぞれの道中において同様の腹痛を経験することになったのでした。約一年という間隔をおいて、100キロのウォーキングという同様の状況の中で腹痛に見舞われたという事実に向き合うこととなり、そこには同じ原因が潜んでいるのではないか、と考えるに至りました。そこで、ワシなりに調べたことを記事にまとめて、ウォーキング等に興味がある方々と情報を共有したいと思います。また、ワシのまとめた内容に訂正すべきもの、補足すべき点等がありましたら、教えていただけると有難いです。

運動誘発性胃腸症候群(EIGS)とは?

運動誘発性胃腸症候群(Exercise-Induced Gastrointestinal Syndrome)とは、激しい運動を長時間行うことによりもたらされる、一連の胃腸不調症状の総称です。マラソン、トライアスロン等の持久系スポーツにおいてよく見られています。一般的には、胃腸への血流の低下が主な原因とされています。

身体に現れる症状

胃:吐き気、嘔吐、胃痛、胃もたれ、胸やけ等

腸:腹痛、下痢、血便、腹部膨満感等

原因・メカニズム

1.血流の減少

自律神経は心拍数、消化、呼吸等、不随意の身体機能を調節します。交感神経と副交感神経があり、前者は闘争・逃走反応、後者は休息・消化反応に関わっています。

持久的運動→交感神経優位→闘争・逃走反応(fight or flight)が活性化

→血流が筋肉や心臓等、運動に必要な器官へ優先的に供給される。

→結果、消化器官への血流が制限されて、胃腸の虚血(血流不足)が起こる。

→胃腸の蠕動運動が低下、消化酵素の分泌も抑制され、消化不良等が引き起こされる。

 

2.ホルモンバランスとの関係

神経伝達物質(脳内ホルモン)は脳のシステムをコントロールしている重要な物質です。このホルモンバランスの変化もEIGSとの関りがあるとされています。

コルチゾール(ストレスホルモン):ストレス応答に関与し、運動中に上昇。

→血糖値を上昇させるために、消化管の血流を抑制(腸管虚血)

→消化機能の低下→下痢や腹痛が誘発される。

アドレナリンとノルアドレナリン:交感神経を刺激し、心拍数や筋肉への血流を増加させる。

→消化管の蠕動運動(ぜんどううんどう)の抑制

→消化液の分泌減少

→結果として消化不良や腹部不快感が引き起こされる。

インスリン:血糖値調整(エネルギー供給)。

→長時間の運動でインスリン分泌が抑制される→胃腸機能が低下

→特に絶食状態での運動で胃腸トラブルが悪化しやすい。

セロトニン(幸せホルモン):消化管運動と気分調節に関与。

→セロトニンの90%以上は腸内で生成

→過剰な運動ストレスで腸内セロトニン分泌が乱れ、下痢や腹痛が誘発される。

 

3.暑熱環境

暑熱環境とは熱中症のリスクが存在する環境のことを指しています。これもEIGSのリスクを高めるものとして指摘されています。

運動→交感神経活性化状態+暑さによる皮膚への血流集中(∵熱放散)

→胃腸への血流不足が更に悪化する。

発汗→脱水、電解質(ナトリウム、カリウム)喪失

→胃腸機能を妨げる原因となる。

水分不足→腸管の蠕動不全を引き起こす原因となる。

カリウム不足

→腸管の平滑筋の収縮低下(∵カリウム:平滑筋収縮に重要)

→腸の蠕動運動が減弱。

→胃壁細胞の機能低下

→胃酸分泌減少→消化不良を引き起こす。

→カリウム:膵液、胆汁の分泌に関与

→カリウム不足→脂肪の消化不良→脂肪便、下痢の原因となる。

ナトリウム不足

→体液のバランスが崩れる→細胞内外の浸透圧異常→神経伝達、筋肉収縮低下

→消化管の働き低下→消化不良等が生じる。

→体液バランス異常→胃粘膜血流低下→胃の粘膜防御機能低下

→胃炎等のリスクが上昇する。

→ナトリウム:水分と一緒に腸管内へ分泌される

→ナトリウム不足→腸液分泌低下→消化吸収が悪化する。

※消化管:自律神経により制御→カリウム、ナトリウム不足→神経伝達阻害

→胃腸の動きに影響を与える。

 

4.メカニカルストレス

メカニカルストレスとは細胞や組織が体内で受ける様々な物理的刺激のことです。

跳躍やランニングなどの動作→振動、揺れ

→胃の内容物が動き易くなる→吐き気等

→腸壁等への物理的刺激

 

5.NSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬(鎮痛剤)

NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を阻害することにより、プロスタグランジン(PG)の合成を抑制します。PGは炎症や痛みのシグナルを伝達する役割があり、痛みの感受性を高めます。つまり、この物質の生成を抑えることで痛覚神経の感受性を低下させ、鎮痛効果を得るのです。

PG

胃粘膜の血流維持、粘液等の分泌により胃を保護、血管拡張作用により腸管の血流維持

→PGの抑制→胃腸の血流低下→胃腸の保護機能低下→消化器官障害の原因となる。

腸の透過性亢進(リーキーガット症候群)

腸には食事中の毒素や微生物が体内へ取り込まれることを防ぐバリア機能があります。このバリア機能が低下すると、毒素や細菌が血流に流入して身体に炎症が起こり、それに様々な不調をもたらします。こうした腸壁の透過性が高まった状態のことを腸の透過性の亢進(リーキーガット症候群)と言います。

運動誘発性胃腸症候群(EIGS)→胃腸の機能低下→消化吸収不良

→腸管壁の損傷→腸の透過性亢進のリスクが高まる。

予防・対策

・水分補給の徹底

→水分と電解質の十分な補給→予防、重症化抑制となる。

・低繊維食の摂取

→運動前は消化の良い食品を選んで摂取する(高脂肪や高繊維食品を避ける)。

cf.FODMAP食の忌避

→小腸で分解・吸収されにくい

→摂取することで腹痛や下痢・腹部膨満などの腹部症状が起こるリスクがある。

・運動中の適度な栄養の摂取

→摂食により胃腸の血流を改善させる。

・トレーニングによる調整
→徐々に運動強度を上げることで身体を慣れさせる。

まとめ

・胃腸の血流状態に留意し、日常生活での食事管理にも気を配ることにより、胃腸機能の維持を図る。

・普段からの身体作りにより強度の高い運動に耐えうる身体の状態を整える。

→運動誘発性胃腸症候群(EIGS)の予防により、運動パフォーマンスの低下も予防

→良好な体調でスポーツを楽しむことにつなげたいものです。

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